SUP 上智大学出版 (春先刊行予定)
ヴェルサイユ体制 対 ケインズ
― 説得の活動 /ニュー・リベラリズム/ 新たな経済学
平井俊顕著
第1章「第1次大戦」では、それがどのような戦争であったのかを、そこに至る大戦前ヨーロッパの状況を概観したうえで、発生と帰結および戦線の展開経緯を概観する。そして、大戦の進行下で発生した経済危機のなか、金融交渉、為替危機などをめぐりケインズが大蔵省で見せた活動を年次別にみていく。
第2章「パリ講和会議」では、最初に、戦時中に、大蔵省に属するケインズがどのような活動を行っていたのかをみる。続いて、講和会議における最高議決機関となった「カウンシル4」の状況、ならびにケインズが提案した2つの案 - これらは否決される- に触れる。
なお、パリ講和会議前後のヨーロッパの政治・軍事情勢を一瞥する。第1次大戦においてドイツと連合国間の戦いは、「とりあえず」終結したのだが、それ以外にヨーロッパ各地で、革命、独立運動、内乱、そして戦闘自体が広範囲にわたって継続的に発生し ている。
第3章「『平和の経済的帰結』」では、帰国後、わずかの時間で書き上げられた『平和の経済的帰結』(1919年)を取り上げる。そこでは、(1) 積極的で具体的なヨーロッパの再建策、(2) 戦前ヨーロッパ、戦後ヨーロッパをめぐる洞察から導かれているケインズの資本主義観、(3) ヴェルサイユ条約弾劾 (カルタゴの平和) を主題的に扱う。ケインズの基本的構想という視点から見れば、重要なのは (1)、(2)である。
第4章「ワイマール期、イギリス経済、ケインズの理論・政策活動」では、いわゆる「ヴェルサイユ体制」がどのような展開をみせることになったのかを、主題的に検討していく。最初に、1920年代のドイツの状況を扱う。具体的には、「ヴェルサイユ体制」下でのドイツ (ワイマール体制) における極限の混乱、ハイパー・インフレの発生、束の間の安定に触れる。それに引き続き、この間のイギリスが抱えていた経済問題 (「戦債と「再建金本位制」」と、それをめぐるケインズの活動、ならびに同時期、ケインズが取り組んでいた経済学的著作『貨幣改革論』(1923年)、ならびに『貨幣論』につながる彼の取り組みをみていく。
第5章「政治経済的混迷に立ち向かって」では、大戦の終結から1920年代中葉に、ケインズがどのような活動をしたのかをみていく。彼はイギリスの政界やドイツの政界関係者と深い連携をもちながら、賠償、対米債務、マルク危機等について、世界の世論を変えようとする明確な意図をもって、メディア活動を続けている。この点を具体的な資料の検証を通じて明らかにしていきたい。
第6章「「ニュー・リベラリズム」の展開」では、ケインズが、「ネーション・アンド・アッシニーアム」誌を買い取り、そこから自らの社会哲学の展開 ― 彼の「ニュー・リベラリズム」― に努めるとともに、それを実践・普及することに努めた、という点である。「ニュー・リベラリズム」とはどのような内容を有するものなのかを明らかにし、それと旧来の「ニュー・リベラリズム」(ホブソンやホブハウスに代表される) との異同点を調べたうえで、さらに関連する諸論点を取り上げ考察していく。
第7章「賠償 (および戦債) 問題」では、1920年代後半期にこの問題がどような展開をみせたのかを扱う。とりわけドーズ案とヤング案に大きな焦点が当てられている。
第8章「20年代の欧米日情勢」では、この期間、欧米の主要国(ソ連、イタリア、フランス、アメリカ、イギリス)それに日本がどのような政治・経済状況にあったのかの概観を描いている。
第9章「30年代の欧米日情勢」では、最初に、「破局にたぐり寄せられるヨーロッパ」として、1929年のニューヨーク株式取引所の大暴落を引き金としたアメリカの経済破綻がヨーロッパをも襲い、ついには「賠償」も戦債問題も結果的に終焉するに至った状況を扱う。こうした経済的破綻は、ドイツにあっては、ヴェルサイユ体制打倒を唱える極右政党ナチスが国民の急激な支持を集める大きな契機となった。続いて、この1930年代に欧米の主要国、および日本がどのような政治経済情勢にあったのかを示すことで、全体としての30年代の世界を概観している。
最終章の第10章「『貨幣論』、そして『一般理論』へ」では、1928年頃から1936年にかけて ― そしてこの期間もケインズは、本書で扱ってきたヴェルサイユ体制下の多くの重要問題に、様々な時論的活動を通じて大きく関与し続けている ―、経済学史上の重要な著作の執筆活動を続けていた、という点に注意を喚起すべく、『貨幣論』と『一般理論』の理論的構造と政策論を論じている。
なお補章「第2次大戦におけるケインズの活動」は、晩年6年間の活動の概略を示すことに充てられている。
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